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2010年1月27日 (水)

(500)日のサマーのことを忘れていた。

少し前に見て日本公開になるタイミングで記事にでもしようと思っていたのだが、すっかり忘れていた。インターネットで他の映画のことを調べていて、知らないうちにこの映画がすでに公開されていることを知った。東京では渋谷のシネクイントと日比谷のTOHOシネマズシャンテで上映している。

映画の冒頭でも説明されているように、これはボーイ・ミーツ・ガールの物語である。題名を聞いた時に500日間の夏の物語なのかと思ったのだが、サマーというのはヒロインの女性の名前であり、この映画は主人公の男の子、トムの視点からのみ描かれたサマーを巡る500日間の物語である。とはいえ、映画は時系列には進行せず、500日間のある時点からある時点へと進んだり戻ったりする。初めのシーンは488日目で、ベンチに腰かけて手を重ね合う2人の後姿が描かれる。ウディ・アレンの傑作ラヴ・ロマンス映画「マンハッタン」へのオマージュのようである。これを見るとハッピー・エンドの映画のようではあるのだが、一筋縄ではいかない感じである。

私がこの映画のことを知ったのは海外の雑誌(どれだったかは定かではない)でだったのだが、いわゆる普通のロマンティック・コメディーものならばそんなにも食いつかないのだが、どうしても私の関心を引かずにはいられないキーワードがあったのだ。それは、THE SMITHSというバンド名である。おそらく私が生涯で最も好きなバンドを挙げるとするならば、このイギリスはマンチェスター出身の4人組になる。今日のイギリスやアメリカをはじめとするインディー音楽に多大なる影響を与えたのは間違いないのだが、世界的な大ヒット曲があるわけではなく、必ずしも万人受けするタイプの音楽とは言い難い。これがアメリカ映画で大きく取り上げられているということ自体が驚きであった。すぐに予告編を見てみたのだが、主人公のトムとヒロインのサマーの初めての会話と思われるシーンがあり、それはオフィスのエレベーターの中でトムのヘッドフォンから漏れる音楽を聴いて、サマーが「THE SMITHS好きよ」と言い、さらにはアルバム「THE QUEEN IS DEAD」収録曲で、ファンの間で特に評価の高い「THERE'S A LIGHT THAT NEVER GOES OUT」の一部分を歌うというものなのだ。「THIS CHARMING MAN」でも「HOW SOON IS NOW?」でもなく、この曲というのがまたたまらない。

グリーティング・カード会社に勤め、吐き気がするほどロマンチストであるがゆえに現実には退屈しきっているトムは、これを運命の出会いだと信じ込んでしまうような困ったタイプの男の子であり、まったく他人事とは思えないのである。確かにTHE SMITHSが好きか好きじゃないかで、だいたいその人と合うか合わないかが分かるという、THE SMITHSとはそんなタイプのバンドではある。肉体と精神とどっちが大事かだとか、歌詞の中にキーツだとかイェーツだとかといったロマン派の詩人の名前を出したりとか、そういうことをあの物質主義全盛の80年代にやっていたバンドである。ヴォーカル、MORRISSEYのあまりにもユニークな詩の世界とヨーデルにも通じる独特なヴォーカル、テーマはサッチャー政権から学校での体罰から菜食主義からもちろん日常の恋愛や労働のことまで、実に幅広い。悲しみや絶望を歌ったものも多いのだが、乾いたユーモアがあり、そこがたまらない。ギタリストのジョニー・マーは様々なジャンルの音楽に通じた才人であり、その卓越したポップ感覚がMORRISSEYの詩およびヴォーカルと出会った時に、唯一無比の化学反応が起こるわけである。MIKE JOYCE、ANDY ROURKEのリズム隊の縁の下の力持ち的な偉業も忘れてはならない。

かつて、私は女の子と仲よくなって自分の部屋に来るような流れになった場合、まずは一晩中THE SMITHSのレコードをかけながら私による詩や音楽の解説をし、これに相手が呆れないかどうかによって、その人と付き合えるかどうかを判断していた。というか、当時、私の内面の深い部分に入るには、THE SMITHSを知らずには不可能というようなぐらいのものだったのだ。もちろん、私はTHE SMITHSに心酔しているような人間なので、内面のつながりなしに肉体的な関係になることなどは不可能であった。なので、オフィスに新しく入ってきたかわいい女の子がエレベーターの中で「THE SMITHS好きよ」なんて言ってきたとしたら、むしろそれを運命の出会いだと誤解しない理由が分からない。

トムの子供時代の場面では、JOY DIVISIONのTシャツを着て、部屋にはTHE SMITHS、PIXIES、THE JESUS AND MARY CHAIN、ECHO & BUNNYMENなどのジャケットが飾ってある。会社のカラオケ・パーティーでも酔っ払いながらPIXIESを歌う。ちなみに、サマーの方はNANCY SINATRAの「SUGARTOWN」なんかを歌っていて、この辺りの選曲も実にたまらん。「LOST IN TRANSLATION」におけるROXY MUSIC「MORE THAN THIS」VS PRETENDERS「BRASS IN POCKET」以来のグッと来た映画におけるカラオケ場面である。他にも、トムとサマーの関係が深くなった時に、HALL & OATESの「YOU MAKE MY DREAM」がかかり、突然街がミュージカルのようになる。アニメの小鳥まで飛んできてしまう始末である。しかし、恋におちた時、世界はそんな風に見えることがある。あとは、決定的な告白めいたものをあれこれシミュレーションするのも吐き気がするほどロマンチストの男の子にとっては当たり前のことなのだが、得てして現実はその通りにはいかないものだ。この理想と現実を1つの画面を分割して同時に描きだしてしまうといったユニークな手法も用いられている。

せっかく劇場公開にもなったので、これはぜひとも嫁と一緒に見に行きたいと思ったのだが、嫁はどうやら「かいじゅうたちのいるところ」の方が見たいようだ。いや、あれも面白そうなのだが。この記事のどこかしらに何かを感じた方ならば見てよかったと思っていただけるのではないだろうか。


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